事件は会議室で起きてるんじゃない!実家で起きてるんだ!警視庁24時と緊急救命24時が同時放送だよ。
その日はね、前髪の分け目をいつもと反対側にしました。
理由なんてないよ。なんとなく。
いつも通り朝の準備して出勤して、いつも通り仕事してました。
気がついたら15時過ぎでね、仕事落ち着いたし、あー帰りてーなーなんて椅子から立ち上がって伸びをしてたんです。
あー明日は精密検査の結果発表だー、
やだなやだなー怖いなー絶対手術だよなー、
仕事調整しねーとなーってか外来じゃなくてサクッと結果だけ電話とかで教えてくれたら楽なのになー、
そしたら仕事調整しなくていいのになー、
でも外来って事で仕事の時間調整できたし、空いた時間で友達と近所のケーキ屋のスイーツバイキング行くんだー
そしたらね、電話が鳴ったんです。
デスクに置いてた私用携帯。
知らない番号。
何これ怖い誰だよ。
え?検査結果かな?って。
あれ?神様っているのかなって。
でも検査結果だったら明日休めないからケーキバイキング行けねーなーって。
ドキドキしながら、はーいって電話に出たらね、実家の近くに住んでる親戚のおばちゃんでした。
大変!おばあちゃんが救急車!倒れて!って多分祖母よりおばちゃんの方が大変だよねってくらいの慌てっぷり、息してー息継ぎー!ってくらいおばちゃん声が出てなかった。
あー救急車ね、搬送先の病院どこ?オッケーって慣れた感じて電話を切りましたが体の芯がブルブルしてる気がして、それに気付いたら終わりな気がして気付いてませんよー私は知りませんよーってな感じで、とりあえず上司に「祖母が救命搬送中ですので早退します」と伝えて早退準備。
してたらさ、また着信。
あれ?この番号って救命センターじゃん、なんだよもう向かうっつーの、ちょと待てよー
木村拓哉のまま電話にでましたら圧がすごいの。
今どちらですー?って、圧が。
いや、今向かってますーって、そうですかーって電話終了。
したら5分経ってないよねって刻み具合でまた着信。救命センター。
いや向かってるっつってんじゃん、ちょと待てよーってなるよね。
したらば、どれくらいで来れます?って圧よ!
圧がすごいんじゃあ!
何よこれ、もーやめてよね急かさないでよねって一昨年のこと思い出してた。
1年半前の夏にも同じことがあった。
その時も実家の近所に住んでる親戚のおばちゃんからの連絡で祖母が救命センターに搬送されたってやつ。
自宅ですっ転んで動けなくなって、それでも何とか自分で救急車呼んだらしい。
救急車が来て近所の人が気づいて私に連絡がきた。
ブルブル震えながら救命センター行ったらさ、腰椎骨折でウンウン唸ってる祖母、祖母を午後の外来で拾って家族が私と気がついてニヤニヤしてる担当医(友人)、焦って走ったためコケてやや負傷してる私、何このトライアングル。
あの夏はすごかった。
入院に係るお世話関係と仕事と家事と遊びで寝る暇なくてさ、いや遊んでないで寝ろよって今なら思うけど、あの時は若さも手伝って暴走特急よ、セガール呼んでこーいってなもんよ。
おばあちゃんも秋には無事に退院できて、私は趣味も増えて友人も増えてタバコの量も増えてトイレで盛大に下血。
なにこれ何の罰ゲーム?
絶対痔だと思ったのに大腸出血でさ、しかもストレス性の出血。下部内視鏡で出血確認できたけど腫瘍的なものは確認できず。
ストレスで血が出ちゃうってね、もうね、どんだけ暴走特急なのかなって。
そりゃ流石のセガールさんも無理でっせと。
ジャンクロードバンダム連れてきてーっと。
ついでにドルフラングレンも一丁。
タバコを吸わなくなったのはドルフラングレンのお陰かな。
いや、ちげーし、下部内視鏡の強烈な下剤を飲んだ朝の一服で眩暈起こしてトイレ前で倒れて動けなくてなったの!
それ以来怖くて吸えなくなったの!猛烈な吐き気と眩暈の中で感じるトイレ前の床の冷たさが頬に気持ちよかったなーって何の思い出よ。
そんな救命搬送の思い出。
だから軽く考えてたのよ、いや軽く考えたかったのよ。
ブルブル震えそうになる体に気がつかないふりをして救命センターの受付に到着ですよ。
受付の職員さんに声をかけたら、まあ慌てる慌てる。ちょっとサザエさんかなってくらい慌ててナース呼びに行くわけですよ。
あれれー?おかしーなー?前とは違うぞー?なんて小学1年生でもない見た目はオバハン中身はオッサンがソワソワ受付で待ってると、処置室の扉を開けて颯爽とナースが現れたわけです。
ご家族の方!こちらですってグイグイに処置室に戻っていくわけ。置いてかれてる場合じゃねーって慌ててついてくんだけど、ナースの早いこと早いこと。
あれ?一本道だったよね?
しかも結構短めの一本道でナース見失ってさ、でも行く手にはカーテンしかないし、ここだよなーってカーテンちらっとめくったのよ。
もうね、緊急救命24時。
あれ?これテレビでも見たことあるわって、よく患者さんにモザイクかかってて声が甲高く変わってるやつね。
でもね、よく見たらさ、患者さん知ってる気がするの、いや、あれ?気管挿管されて口から変な管でちゃってるけど、あれ多分おばあちゃん。うちのおばあちゃん。
うちのおばあちゃんが口から変な管だしてびっくりするくらいCPR。
で、モニター横の医師と目があってさ、「どうされます?」って聞かれてるの。
どうって、何を?ん?ちょっとこれってあれかな?あれだよね?
なんて固まってたらさ、間髪入れずってこのくらいの時間かなって速さでね、呼吸なし、心停止、顎硬直、さあどうします?って。
答えは一個しかないよね。
「もう結構です」って言った私は多分知らない人だったと思う。緊急救命24時に出てる人とかだったと思うよ。
私の声が処置室のスタッフに届いたんだろうね。はい、次の仕事みたいにいつも通りに時間が動き出してさ、細かいこと色々あって、ふーって落ち着いてさ、おばあちゃんと2人になったの。
霊安室で最期の女子会。
やべー、泣けた。いや今でも泣ける。これきっといつまでも泣けるやつだね。
したら警察の人が来てね、検案するから別室で待っててねーってグズグズ別室に移動。
そんでさ、おばあちゃんの着替え取りに帰った父親が戻って来ないからさ、家族に連絡したら
実家が警視庁24時。
黄色のテープで近隣の道路封鎖で鑑識がガンガン作業してて家に入れないって、だもんで近所の親戚宅でお茶飲んでるって。
何それ?あーさっき話し聞かれたなーって警察の人に家族構成とか聞かれた気がするなーって、え、何ー?って思ったんだ。
そういえば霊安室で何やってるんだろ?
こんな時間かかるもん?
不安になってさ、医局にいるはずの友人に電話した。
友人「あー何かCPAの人搬送って言ってたなー、待って、これやばいな」
何やってんのか聞いたらさ、パソコンで祖母のカルテ見て興奮してやんの。今までで5本の指に入るくらいの凄い血腫だって。
え?見ていいの?いやダメ、オフィシャルにはダメだっつーの。カルテ勝手に見るのダメ絶対。
待って、血腫?祖母は心臓が悪くて搬送されたんじゃないの?ん?
CTからは骨折線がうっすら見えて、頭蓋骨内の半分くらい凄い大きい血の塊になってて、要するに頭部外傷による硬膜外血腫が死因じゃないかと。
え?心臓関係なし?何それ?
友人「警察来てます?」
私「来てるよ」
友人「ヤバイですよ、お前がやったやろって絶対言われますよ」
いやさ、やってないし、知らんし、でも死因は知ってるし、あれ?これって犯人しか知り得ない秘密ってやつじゃないの?
笑えない、笑えないはずなのに病院の廊下でケラケラ笑ってしまった。
私が捕まったらアンタのせいだからねーってケラケラ笑って電話してる私を見てたら遠く向こうに見える霊安室の扉が開いて強面デカが出てきた。
やべー、電話してる場合かと慌てて強面デカんとこ行ったわけ。
へへへって薄ら笑いしながら強面デカに揉み手ですり寄ってさ、どうすっかなーなんて思いながら引きつって笑ってみた。
強面デカの左腕の腕章には「刑事課」って、これマジもんのデカじゃん。デカレンジャーとかじゃなくてマジもんのデカ。
口髭が怖いよねなんて思ってたら、まさかのデカ側からの死因説明。
頭部外傷によるものですが何処かに頭をコツンとぶつけた可能性が高いとのこと。殴られたなら顔面がもっと酷い内出血になりますからねって優しい笑顔で教えてくれた。
慰めてくれたのかな?強面で優しいデカでした。
ただ、あくまで現時点での推測ですので事故だという証拠を探しますので実家の保存にご協力くださいって言われた。
それはもう全力で協力しますよって、こちらこそお願いしますってペコペコしながら別室に避難した。
ちなみに鑑識の結果はね、お茶を飲もうとしたらコケて台所のテーブルに頭をぶつけたことが死因であろうって事で落ち着いた。
よかったー私やってない罪で服役とか焦るー、マジで友人要らんことしいやなって八つ当たりしたよ。
でね、強面デカと別れて別室に避難してボーっと私を見てる時に気がついたの。
カルテ見ればいいじゃん。
もっかい友人に電話してさ、私のカルテ見てもらった。
明日の外来なんだから結果出てるだろうって、患者が許可してんだから見ろって、明日から私お通夜の準備とかで忙しいからって、これ何の脅迫?やべーダメ絶対。ごめんなさい反省してます非常事態だったんです、悪気はなかったんです、つい魔が差して、本当にごめんなさい。
でね、結果出ててさ、異常なし。
え?
え?
2人とも。
少なくとも先月の時点では癌があったのに無くなってた。
でも癌の疑いって状況は拭い去れてないから恐らく経過観察じゃね?ってことで落ち着いた。
もうね、何が何だかわからなくて、なんか疲れてさ、なんとなく自販機で飲み物を買おうと思って階段のとこ行ったのね。
したらば、おばあちゃんの検査を予約してた主治医(たんちゃん)と遭遇。
あー!つって、したらば向こうも、あーカルテ見ましたって、お前もかー!って、いや、たんちゃんは主治医だから見ていいんだわ。
たんちゃんに「お世話になりました」って言えたわ。おばあちゃんが呼んだなって、私がたんちゃん大好きなの知ってて呼んだなって。
コーヒー飲んでボーっとしてたら父親が来て、おばあちゃんと一緒に実家に帰って業者さんと葬儀の打ち合わせして気がついたら夜中の0時。
久々に集まった妹達と遅めの夕食。うどんすすりながら葬儀の事なんかを話してた。
燃える物なら好きな物を棺に入れていいって葬儀屋さんが言ってたから何入れるかなの相談。
あれは?これは?なんて談笑してなのよ。
したら母が「お茶好きだったからお茶っぱ」なんて言うからさ、
「お茶入れようとして死んだけどね!」って言ったんだ。
笑ってるの私だけだった。
あれー?おかしいなぁ?みんな苦笑いだわ。
自宅に帰って家族に報告したらさ、
「1年早いわ」って注意された。そういう冗談は一周忌の時とかに故人を思い出しながらするもんだって注意された。
翌日
午前中に友達とケーキバイキングに行った。
昨日おばあちゃん死んで、この後私は癌の精密検査の結果聞いてから実家でお通夜って報告した。
友達ドン引き、そんで盛大に慰めてくれた。
いっぱい話し聞いてくれた。
あっという間にケーキバイキング終わってさ、頑張れーって応援されて外来に行った。
そんで検査結果発表。
なんで?って外来の医師も不思議そうにしてた。
経過観察で定期的に検査していこうねーって言われた。
全部想定内でサクサク進んだ。
外来終わって駐車場から車運転して帰ろうと思ったら間違えて病院入口のロータリーに行ってしまった。
乗り降りする停車場のベンチに祖母の姿はなかった。
実家への帰り道、信号待ちで止まってたら昔からあるスーパーが目に入った。祖母の通院の帰りに必ず寄ったスーパーだった。
バイヤーのセンスなのか取扱商品が渋くてお客さんの年齢層は高めだけといつも賑わっていた。
祖母はそのスーパーのお漬物が好きだった。
実家に帰って片付いた仏間のとなりの部屋の布団の中で祖母は寝ていた。
ただいまーって話しかけて祖母の頭を撫でた。
思い出せないけど何かいっぱい祖母と喋った。
礼服どこやったかなーって思ってたら田舎なもんで長女の私はレンタル衣装で即席の極妻の出来上がり。
写真撮って後日友達に見せたらウケるウケる。
滑らない写真を手に入れた。
葬儀が終わって帰宅しないといけない遠方に住む妹を駅に送ったらね、骨上げに間に合わなくてさ。
おばあちゃん小さかったから予定より早く焼き上がっちゃってさ。
実家に帰ったらさ、仏間の棚の上の小さな箱の中身になってた。
お通夜も葬儀も初七日も終わった。
昔実家で飼ってた黒猫がいてね、もう何年目よってくらいのおじいちゃん猫。
ある日フッと抱き上げたら軽いのなんの、スカスカでさ、あれー?お前こんな軽かったかなーってよく見たらフワフワの毛の下の皮膚に肋骨が浮いてんの。ガリガリでやんの。
こいつガリガリだよー死ぬんじゃね?って父親に冗談言ってたんだけど、そんな私をジーっと見てんのね黒猫が。
なんだよもう可愛いなってグリグリ撫でてやった。
その後すげー鼻水。
私ね猫大好きな猫アレルギー持ち。
ツレーよ。いろんな意味で。
次の日から黒猫見なくなっちゃってさ、それ以来ずっと見てない。多分死んでる。
けど私の中では死んでないの。
区切りをつけるものが無いまま今に至るわけ。
今でも黒猫を見るたびにニヤニヤしちゃう。
あー元気で生きてんなーって思っちゃう。
その辺で歩いてるお年寄りでさ、おばあちゃんが着てたのと似た服のお年寄りを見るとね、あーって一瞬思うんだけど顔は別人なわけ。
当たり前だけど。
泣けるよねー。なんでだろ。
黒猫はニヤニヤできるのにね。
あれから何回も癌の検査したけど異常なしでさ。
ようやく検査の期間が半年に伸びてさ。
でもまだするのかーって、ずこーってこけてさ。
本当に今だに不思議なんだわ。
おばあちゃん、癌を持ってってくれたのかなーってね。
おばあちゃん、ありがとう。
ケーキバイキング美味しかった。
そんな祖母の1周忌も無事に終わりました。
ついでに祖父の23回忌も無事に終わりました。
妹は来月二人目を出産予定のため来れませんでした。
え?妊娠中なの?うそ?お姉ちゃん知らなかったよ?
あれ?聞いたっけか?
いやー、記憶にないなー
私の記憶には無いんですが、もしかして誰か、私の中の他のお姉ちゃんが聞いてたりします?
え?うそ?
やだ、なにそれ怖い