まるでマルのはなし。腕恐竜劇場スピノサウルスVSヴェロキラプトル
うちの住人に比較的小さめの人間がいるわけ。
丸いからマルって呼んでる。
んで、マルは小さいから小学校通ってんの。
もう2年目。
昨日マルが熱出してさ、39.8度。
小学校早退して解熱剤飲ませて寝かしつけたの。
一晩寝て起きたら平熱。
あれ?完全にインフルだと思ってたのに。
え?すごいねー、若さってすごいねー。
39歳の私なんて、気管支炎で1週間寝込んだもんよ。
マルの熱は下がったけど、お腹が気持ち悪いとの事で本日は小学校お休みです。
近所のかかりつけ医を受診しますよー。
昨日のうちに仕事の調整してっからさ、大船に乗った気持ちで1日を過ごせる。
かかりつけ医に電話してさ、指定時間に受診したの。
発熱してたって事で待合室じゃないベッドのとこに案内されて待機します。
念のため、いつも寝る時に抱きしめてる毛布の小さいサイズの毛布を持って行った。
毛布があると安心するみたい。
これらの毛布は、当初フワフワしてたけど経年劣化でゴワつきだしてて寝る時用の大きなサイズを「クサ毛布」、
携帯用のひざ掛けサイズを「ちっちゃい」って呼んでる。
クサ毛布の由来は「マル臭い」から、ね。
ご存知の通り、病院って待つよね。
すげー待つよね。ほんと下手したら1日仕事。
あれ?もう今日が終わっちゃうよーって1日仕事。
私は病院とかの待ち時間は平気なんだけどさ、
マルはダメだよね。苦手。これ何待ち?ってくらい、ダメ。
あ、でもね、もっとサイズが小さかった頃に比べたらマシ。ほんと成長っての?小学校の先生の成果っての?すごいよねー感謝しかないよ。
ベッドで待ってる間さ、暇だから話してたの。
マルとの会話だからさ、そんなに深い意味はないよね。意味のない会話って覚えてないよねー。思い出そうと頑張ってみるんだけどさ、やっぱり何にも思い出せないよね。そんな会話。
意味がない会話っていうより、思い出せない私のポンコツ具合が露呈してるよね。
流石に飽きたんだろね。急に服をペロッてめくってお腹出して、
「腹、食べて(笑顔)」
え?腹を食べるの?誰が?
すげー私を見つめて笑顔のマル。
食べるの私か。
えーやだよーマル昨日お風呂入ってないじゃん、しかも菌とかウイルスとか何付いてっか分かんねーじゃん。
・・・なんて言えないよ。
マル気にしいだからさ、色んな意味で悲しくなっちゃうんじゃないかと思ったら言えないよ。
でも、私も食べたくないよ。
どーしよーかなー、誰に食べさせよーかなーって悩んでさ。
よし!って、両腕に恐竜召喚した。
指先を全部くっつけて親指をパクパクさせるの。
右手がスピノサウルス。
左手がヴェロキラプトル。
恐竜達がマルのお腹を見てんの。んで、チラッとマルの顔を見る。
んで、またお腹を見た後でお互いに顔を見合わせるの。
スピノの口がパクパク動くのをラプトルが黙って聞いてるの。
スピノの口が止まったら、今度はラプトルの口がパクパク動くの。
私はチラッとマルを見たんだけど、目がキラキラしてた。
その時のマルには私が見えてなかったと思う。
マルが見てるのは、ジュラ紀の森にいる2匹の恐竜。
その恐竜達がマルの腹を狙ってるの。
ハラハラドキドキの大スペクタクルの幕開け。
さぁ、どーやってマルの腹を食べるのか?!
マルはどのようにして恐竜達をかわすのか?!
マルと恐竜達の攻防が、今、幕を開けた!
私が右手と左手でマルの腹を突っついたり、
尻を突っついたり、
頬を突っついたりしてたの。
チョンチョンって。
絵面としてはシュールなんだけどチョンチョンしてた。
そしたらさ、腕恐竜劇場が白熱してきちゃってさ、マルの声の大きさがね、ボリュームが上がっちゃってさ。
マルが居るのはジュラ紀なんだか白亜紀なんだか知らないけど、私が居るのは平成の病院のベッドだからさ。
あ、これ、静かにしないとなって、隣のベッドにも人いたなって、薄いカーテンの向こう側に病で弱ってる診察待ち人いたなって。
ジュラ紀のマルに、
「静かにしてください」なんつって伝わるかなーって、伝わらないよね。
なので、
「マル、昨日お熱だったからさ、鼻で綿棒が暴れるかも」ってインフルの検査の可能性を示唆してみたわけよ。
マルが急に現代に戻ってきてさ、
「いやだ(不安)」
黙っちゃうよね、超静か。超不安。
やだよー、鼻ツンツン、嫌だよねー。
念のため持ってきた「ちっちゃい」を握りしめ出した。
そんで診察。
一通りの問診を終えたところで医師の指示によりインフル検査。
医師の手に握りしめられた長めの綿棒。
サッと表情が変わり悲しそうに泣き出すマル。
マスクの上からしっかりと両手で鼻をガード、綿棒の侵入を阻むマルの両手。
現れる新たな刺客、ベテランナース2人。
はいはいはいーって怖くないよーってすぐ終わるよーって笑顔で慣れた手つきでマルに近寄るナース達。
・・・勝てるわけないよね。
なんとか検査、終了。
インフルじゃなかった。
あれー?あの熱、何よ?
ひとしきり大泣きした後に、マルが涙目で、
「何にもないのになんで鼻ジーしたん?」
熱もないのにインフルの検査を実施して、無駄に鼻の粘膜に負担をかけた事にお怒りのご様子。
暴れたよねー、あの綿棒、暴れ倒したよね。
でも、マルも暴れたよね。必死。
「にゃあーあー」って、あれ?猫かな?割りかしでっかい猫かな?ってくらい鳴いたよね。もう、猫っていうか、サイズ的にはピューマとかそんくらいだったよね。
綿棒かマルかってくらいマルも負けてなかったけどね。
大人3人がかりでピューマ抱え込んだんだけど、ぎりアウトってくらい仰け反ったよねー。
白熱する綿棒との攻防にさ、診察台から落ちそうになっちゃって、見てるこっちはハラハラドキドキ大スペクタクル。手に汗握ったわー
あー疲れた。
そんな大スペクタクルを終えたマル。
すっげー怒ってんの。
静かに怒ってんの。
そりゃーもう、なんつーの?
全ての怒りのパワーを指先に向けて、一心不乱に「ムスムス」してんの。
ムスムスってのはマルの落ち着く動作で、ふわふわした毛布等に指を絡ませて、口をへの字に閉じて舌を硬口蓋に擦り付ける一連の動作のこと。
ちなみに指の動きだけを「コイコイ」って呼んでるから、厳密に言えばムスムスは硬口蓋に擦り付ける舌の動きのことかな?
熱がないから油断してたんだよねー
何しに来たんだ?って、これ何待ちの時間だ?って、なるよー
そりゃあ腕恐竜劇場だって純粋に楽しんじゃうよねー
そんなわけで、すごいムスムスを披露しながらお怒りのマル。
今回の受診の理由や、検査の必要性を伝えて謝り倒したら、
「明日元気になってほしいわー」ってなんとか納得してもらえた。
すげー他人事なのな、それ多分私のセリフじゃね?
「ちっちゃい」を中尾彬よろしく首に巻きつけて会計のための受付に颯爽とに向かわれました。
乗ったと思った大船は泥舟でした。