まるでマルのはなし。だまれ小僧!お前にあの子の不幸が癒せるのか?分からぬ…。だが共に生きることはできる!
引き戸を修理した話、聞きたい?
部屋と部屋の間にある引き戸なんだけど、まあまあ使用頻度あるやつ。
天井部分にレールがついてて、滑車で扉を吊り下げて引き開けるタイプの扉なんだけどさ、わかるかな?
まぁ、カーテンみたいなもんよ。布の部分が扉。
それでね、上のレールについてる滑車みたいなのが割れちゃってさ。
扉の開け閉めは出来るんだけどさ、
これが、まー、重いのよ。
パワステついてない古い車のハンドル並に重い。
扉が急に昭和。
F=ma?何ニュートンなわけ?もう扉を開ける時に使う筋肉じゃないとこまで使ってる、力技。
無理やり押し通る感じ。
毎日アシタカ気分。おしとーーる!
別にさ、タタラ場と森を遮るような扉でもないわけ。
そんな大層な扉じゃないです。
家の中です、ここ、私の住んでる家の中です。
飯炊きしたり、洗濯したり、ゴロゴロしたり、ただただ毎日を生きている家の中です。
二本の尾を持つ白く大きな300歳の犬神とか、四本牙を持つ500歳の最長老の巨大な白い猪神とか居ないから。
薄々気づいてはいたけど、扉、壊れてるよね?
もう何年も前から重いよね?
重さに慣れちゃった、みたいな顔して生活してたけど、
あの頃は若かった私も、今は四十路のギリ手前で踏ん張ってるわけです。
もう、押し通る踏ん張りがきかないわけです。
だから、サクッと修理を頼んだ。
したらさー、まー!軽いの!
動かざること山の如しだった引き戸が、草原を駆け抜けるほどの速さ!
スッ!サッ!サッ!
うっかり今までと同じ力で開けちゃうと、
ビターーーン!
って扉が跳ね返ってくる。
あっぶねー、ニュートン調整しないと。
無事に修理が完了して、
でっかいイヌも、いにしえのイノシシも居ない部屋でウロウロ生活してた。
はー、快適。
でね、
修理を知らない住人達が引き戸を開けるごとに驚くわけ。
開いては軽い!開いては軽い!
軽いの応酬!
ちょっと、見てて笑えるよね。
住人が引き戸に近づくとさ、くるぞ、くるぞって、ニヤニヤしちゃう。
こうなってくると、もう「あ!軽い!」待ち。
私達なんかはさ、人間目線なわけよ。
開ける側の感想だから、「軽い!」
でもね、マルだけは違った。
うちの住人に比較的小さめの人間がいるわけ。
丸いからマルって呼んでる。
んで、マルは小さいから小学校通ってんの。
もう2年目。
スッポンポン風呂上がりのマルが、パジャマ取りに行こうとして引き戸に近づいて勢いよくオープン!
「あれ?速い!あれ?結構!速く!なっている!!」
「前、ここ、(引き戸と壁の隙間を指差しながら)ここらへん!前に出ていたのに無くなった!」
まさかの引き戸目線の感想。
滑車が壊れてからの俺の動きは遅かった。どんなに速く走ろうとしても動かない俺の滑車。こんなスピードじゃ期待に答えられない。もどかしい毎日を送っていた俺は、滑車を取り替えるという大手術のおかげで以前のスピードを取り戻すことができた。よし、これならいける、目指せ!インターハイ!
だから「速い!」なわけよ。
マルの動きも速いよね。
扉の周りを素早くチェック。
いつもと違うことには食いつくよね。
ひと通り扉をチェックして満足したのか、
尻ぷりぷりしながら前を横切っていった。
おーい!パジャマ忘れてるぞー!